【ドクターズコラム】裏出先生に聞く「睡眠って何ですか?」シリーズ3

睡眠との向き合い方

2013年から2018年3月筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構分子睡眠生物学教室(教授)を務め、現在は、東京大学医学部付属病院 眼科 特任研究員、北里大学薬学部 客員教授、睡眠機能性研究所株式会社 取締役研究所長など多方面で活躍。

睡眠に関する研究を30年以上続けている世界的な研究者 裏出良博先生に、研究者の視点から睡眠について教えてもらうシリーズ。第3回は「睡眠との向き合い方」についてです。

理想的な睡眠の定義とは

人の本来の目的は、眠ることではなく起きて活動することです。しかし起き続けられない宿命があるから、そこに睡眠が入るわけです。

理想的な睡眠の定義はシンプルで、「起きていなければいけないときに、起きていられるだけの睡眠を取れているかどうか」。不必要に長く眠る必要はありませんが、起きていようと思っているのに眠くなるのは、睡眠が不十分ということです。

そして睡眠中に、記憶の整理など我々にとって都合のいいことが脳や体で起こります。その結果、仕事のパフォーマンスが上がったり、肌がきれいになったりといった変化につながります。睡眠がある程度まとまった時間が必要なのは、そのために獲得した行動パターンだからです。

ちなみに、睡眠導入薬を服用した人で、なかなか起きられないケースがあるのは、それが睡眠ではなく昏睡に近い状態にあるからと考えられます。昏睡強盗をイメージしてもらえばわかりやすいですが、睡眠と違い昏睡は自力では起きられず、起きた後も頭がスッキリしなくて熟睡感も弱い。同じ意識を失う状態でも、自発的な生理現象である睡眠と外部からの薬物による昏睡や麻酔では、中身がかなり異なります。

睡眠を左右するのはリラックスと温度

現代人にとって睡眠を阻害する大きな要因はストレスでしょう。だから眠れない人も数日間ハワイなどで静養すれば再び眠れるようになったりします。そうは言ってもなかなか仕事を休めない場合は、普段から自身がリラックスできる睡眠環境を整えて、ストレスをうまくコントロールする体制を作ることが大事です。

またリラックスと同様、温度も睡眠において重要です。人は眠ろうとすると手足の血管が開き、放熱して体温を下げることが昔から知られています。こうした人の機能を活かし、ぬるめのお湯に入浴して末梢血管を開き、熱を逃がして体温を下げることが睡眠に効果的です。ただし熱すぎると覚醒系のスイッチが入り逆効果になるので、体温が0.5℃上昇する程度が良いとされています。

寝具についても同様に、冷たいと血管が縮んでしまうので、就寝前に温かくしておくと眠りやすくなります。一方で夏場は寝具の通気のよさがポイントです。就寝中は汗の気化熱で体温を下げるため、湿度が上がると寝床内がミストサウナのような状態になり、汗をかいても体温が下がらなくなります。熱を逃がし湿度を抑えるためにも、通気をよくすることを意識してください。

お昼寝(シエスタ)の効果と上手な取り方


シエスタとは南ヨーロッパ等で、昼食後の昼寝のこと。

世間的には昼寝を禁止する文化もありますが、食事後の休憩時間など生産性がないときに昼寝をするのは悪くありません。むしろまとまった睡眠が十分に取れない人にとっては必須でしょう。眠いときに寝るのは自然なことですから。

そもそも2時~3時ごろの時間帯というのは、眠くなるように生物時計のリズムができています。そのため、以前は気分転換にティータイムを設ける会社も多く見られました。海外では現在も昼寝が文化として定着している地域があり、スペインやイタリア南部の人々は、昼に帰宅して昼食を取ると夕方まで眠り、その後、夜遅くまで活動するという生活を今でも送っています。

注意しなければいけないのは、30分以上寝続けると脳が本当に眠りに入ろうとしてしまうことです。その手前20分程度で起きることが重要で、それでも仕事の効率は大きく回復します。ただし成長ホルモンの分泌などは、持続性のある睡眠でないと発生しないので、簡易的なパフォーマンスの回復を目的とするのが、昼寝の上手な使い方です。

睡眠環境を整えることは、健康管理への価値ある投資

昼寝も効果的ですが、本来であればまとまった睡眠時間をしっかりと確保することが不可欠です。しかし仕事や通勤時間の関係で現実的に難しいのであれば、限られた時間内でいかに深く早く眠れるかを考えなければいけません。

他の動物と異なり、人は寝具を使って睡眠を取ります。動物や鳥は毛や羽根を立てて中に空気を含み、睡眠時の温度コントロールを自前で行いますが、体毛のない私たち人は寝具にその機能を求めているわけです。また、香りやアルコールなどリラックスに関する嗜好品も同じで、自然にないものをわざわざ労力をかけて作っているのです。

しかし寝具も嗜好品も、空調や照明なども含めて、トータルサイエンスとして睡眠にはまだ未解明の部分が多く残されています。自分の睡眠が足りているのか、睡眠に最適な香りは何かといったことは、客観的に数値化するのが難しいのです。

とはいえ、肌触りのよい寝具のほうが眠りやすいのは明らかですし、睡眠に最適な温度など実証されたデータも以前より格段に増えています。こうした要素を組み合わせつつ、自身の状態や嗜好性を確かめ、よりよい睡眠環境になるようコーディネートしていくことが大事です。

リラックスして効率よく眠るための環境を整えることは、つまりは健康管理への投資です。自分自身にとって価値のあるものになるよう、しっかりと考えていただければと思います。

裏出 良博(うらで よしひろ)

東京大学医学部付属病院 眼科 特任研究員
北里大学薬学部 客員教授
睡眠機能性研究所株式会社 取締役研究所長

1983年京都大学大学院・医学研究科医学博士。83~87年新技術開発事業団・早石生物情報伝達プロジェクト研究員。米国ロッシュ分子生物学研究所や日本チバガイギー国際科学研究所、大阪バイオサイエンス研究所を経て2013年から2018年3月筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構分子睡眠生物学教室(教授)を務め、現在は、東京大学医学部付属病院 眼科 特任研究員、北里大学薬学部 客員教授、睡眠機能性研究所株式会社 取締役研究所長など多方面で活躍。企業と共同研究での睡眠の質を高める物質の発見や、筋ジストロフィーに有効な薬の研究など、研究成果の社会への還元にも積極的に取り組んでいる。

睡眠環境は未来への堅実な自己投資です。~ふとんコンディショナー誕生~


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