【ドクターズコラム】かぶれってなんだろう?〜かぶれの理論前編〜

■非接触性”の接触皮膚炎

“かぶれ”つまり接触皮膚炎というと、ウルシやギンナンなどに直接触れた皮膚が赤くただれた様子をご想像されると思います。でも、3月の花粉症皮膚炎の回で触れた通り、空気中をさまようアレルゲンも“かぶれ”の原因になることが知られています。

この“非接触性”接触皮膚炎は空気伝搬性接触皮膚炎airborne contact dermatitisとして知られています。日常生活環境におけるアレルゲンとしては前出の通り化粧品がもっとも多く、植物が次ぎます。その他には、気管支喘息のアレルゲンとしてもよく知られるハウスダスト、そして殺菌剤もリストに上がっています1)

■ちょっと待って!その行動!!

日常の寝具の手入れを考えて見ましょう。例えば、ふとんクリーナーで布団を掃除したあと、消臭作用や除菌作用のあるスプレーをして仕上げるという方も多いかと思います。あるいは、人工的な化学合成物質は体に悪いからと、“自然派”のハーブなどを飾られる場合もあるでしょう。しかし、消臭剤は香水アレルギーの原因の一番2)に挙げられていますし、ハーブやスパイスによる接触皮膚炎の報告も後を絶ちません3)

ここまでお読みになられて、“じゃ、何にでもかぶれるんですね”と鋭く指摘される方もあるかと思います。答えはおそらく“Yes”です。
“おそらく”とした理由は、動物モデルを用いた沢山の努力にも関わらず、接触皮膚炎のメカニズムは未だ完全に解明されたわけではないからです3)

■免疫学のドグマと接触皮膚炎

皮膚科医がなぜかぶれるのかを理解していないなんて、粗末な話だなと感じられるかもしれません。私を含め、世界中の皮膚科医が内心モヤモヤとしたものを抱えながら、忸怩たる思いで診療しているはずです。

私は、接触皮膚炎の本質的な理解を妨げているのは、この現象を免疫学的に考察した場合に互いに矛盾する以下の二要素ではないかと考えています。

  • 1.免疫反応は、自己/非自己を識別し、非自己を攻撃除外するものである。
  • 2.接触皮膚炎は、自己の皮膚組織を攻撃除外する免疫反応である。

1.は、言わずと知れた免疫学の大原則。
2.は、接触皮膚炎の動物モデルによって以前から明らかにされている知見です。

免疫学のドグマとかぶれの間に生じる矛盾を、果敢かつ明快に説明したのは免疫学者マッツィンガーによる“デンジャーモデル”4)でした。私は、留学中に皮膚バリアとアトピー性皮膚炎のメカニズムについて研究していたこともあって、“理論免疫学者”とでもいう彼女の有り様と、繰り出す理論の切れ味の良さに、どんどん引き込まれて行きました。

花粉症皮膚炎の時にも触れましたが、傷害された組織が出す、“攻撃を受けた”という信号すなわち“デンジャーシグナル”こそが、自己/非自己の壁を打ち破るきっかけになるという考え方を軸とするものです。

なぜ、空気中にごく微量にただよう化学物質や、“自然派”の物質がかぶれを起こすかを、この理論に基づいて検証して見ましょう。次回のコラムはその事について寄稿します。

【引用文献】
  • Breuer, Kristine, Wolfgang Uter, and Johannes Geier. “Epidemiological data on airborne contact dermatitis–results of the IVDK.” Contact dermatitis4 (2015): 239-247.
  • Heisterberg, Maria V., et al. “Deodorants are the leading cause of allergic contact dermatitis to fragrance ingredients.” Contact Dermatitis 64.5 (2011): 258-264.
  • Kaplan, Daniel H., Botond Z. Igyártó, and Anthony A. Gaspari. “Early immune events in the induction of allergic contact dermatitis.” Nature Reviews Immunology 12.2 (2012): 114.
  • Matzinger, Polly. “The danger model: a renewed sense of self.” Science5566 (2002): 301-305.

筑波大学皮膚科 石塚洋典

皮膚科専門医。医学博士

診療のかたわら、皮膚のバリア異常が関与する病気や、角化の基礎的な研究を続けている。

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