【ドクターズコラム】医師が正しく伝えたい「睡眠薬と睡眠導入剤、睡眠改善薬の違いと飲み方」

【ドクターズコラム】医師が正しく伝えたい「睡眠薬と睡眠導入剤、睡眠改善薬の違いと飲み方」

■「睡眠薬」と「睡眠導入剤」、「睡眠改善薬」の違い

睡眠薬とは

「睡眠薬」は、不眠症などの治療のために、医師が処方する薬です。主に使われている睡眠薬には、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Zドラッグ)、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗(きっこう)薬の4種類があります。

睡眠導入剤とは

「睡眠導入剤」という言い方がありますが、睡眠導入剤とは睡眠薬のうちの一部の薬です。催眠効果が早く現れたり、薬の血中濃度が早く低下したりする睡眠薬を指し、寝つきが悪い人によく処方されます。

睡眠改善薬とは

「睡眠改善薬」というものが、医師の処方箋なしに薬局で買えます。これは、抗ヒスタミン剤の「塩酸ジフェンヒドラミン」などを主成分としています。睡眠薬に比べて簡単に手に入りますが、効果は弱く、続けて飲んでも数日~1週間で効きにくくなります。

■ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

現在、広く医療機関で処方されるベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Zドラッグ)は、脳神経の興奮を抑えるガンマ・アミノ酪酸(GABA)の働きを助けて眠気を強めます。これらの睡眠薬は、作用時間の長さによって超短時間型、短時間型、中間型、長時間型の4種類に分けられます。

寝つきが悪い入眠障害では超短時間型や短時間型が、夜中に目が覚めてしまう中途覚醒の場合は中間型が、朝早くに目が覚めてしまう早朝覚醒タイプには長時間型が効果的です。熟睡感が乏しい人には、深い眠りやレム睡眠を減らしにくい非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が使われます。

睡眠薬の主な副作用として、持ち越し効果(翌朝以降も薬の作用が残る)や記憶障害、依存症、離脱症状が知られています。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて副作用が少なめです。睡眠薬は夕食の後しばらくたってから、眠る直前に飲み、薬を飲んだらすぐに寝床に入るのが、正しい飲み方です。

不眠が治ってきても、自分の判断だけで薬を減らさず、必ず医師の指示に従ってください。薬を急に止めると、以前よりも強い不眠に陥ったり、不安やあせり、手足の震えなどが出たりすることがあります。

■メラトニン受容体作動薬:ロゼレム(一般名:ラメルテオン)

2010年から、体内時計に働きかけて睡眠と覚醒のリズムを改善する薬「ロゼレム」が使えるようになりました。ロゼレムは、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」と同じような働きをします。メラトニンは、朝に目覚めて光を浴びてから14~16時間たつと分泌され、その1~2時間後に眠くなります。そして、翌朝に光を浴びると、メラトニンが急速に減って眠気が少なくなります。

ロゼレムは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて、効果はやや弱めです。しかし、体内時計を調整する働きがあるので、不眠症以外でも時差ボケなどの治療薬として期待されています。

ロゼレムは、ふらつきや記憶障害、依存性などの副作用が少なく、長く飲んでいても睡眠効果が弱くなりにくいという特長があります。ただし、ロゼレムはゆっくり効いてくる薬なので、1カ月くらいは飲み続ける必要があります。また、ロゼレムは満腹のときに飲むと吸収が悪いので、飲むタイミングには注意しましょう。

■オレキシン受容体拮抗薬:ベルソムラ(一般名:スボレキサント)

睡眠と覚醒は、脳にある「睡眠システム」と「覚醒システム」によってコントロールされています。睡眠システムと覚醒システムは、それぞれがシーソーの両端に乗っているようなものです。2つのシステムが互いに抑制し合い、バランスをとることで、睡眠と覚醒の切り替えがスムーズに進みます。

覚醒システムを活性化して、シッカリ目覚めさせてくれる脳内物質が「オレキシン」です。オレキシンは1996年に、テキサス大学にいた柳沢正史医師と櫻井武医師が発見しました。そして、2014年にオレキシンの覚醒作用をブロックする、全く新しい睡眠薬「ベルソムラ」が発売されました。ベルソムラは、覚醒システムを活性化しているオレキシンの作用を弱めるので、覚醒と睡眠のシーソーが睡眠側に傾き、眠気が強くなります。

他の睡眠薬と同じく、ベルソムラも眠る直前に飲んでください。ベルソムラの催眠効果は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と同じくらいです。寝つきが悪い入眠障害の人には効きがややマイルドですが、夜中に目を覚ましてしまう中途覚醒の方には有効です。

ベルソムラは薬の作用がおだやかなので、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と比べて副作用は少なくなっています。ただし、他の薬に比べて夢見が良くない方がやや多いようです。気になるようでしたら、主治医と相談しましょう。

■薬局で買える睡眠改善薬「ドリエル」「ナイトール」など

風邪や花粉症の薬を飲むと、眠くなる人がいます。それは、クシャミや鼻水を抑えるための成分「抗ヒスタミン剤」の副作用です。この副作用をうまく利用して、「寝つきが悪い」とか「眠りが浅い」といった一時的な不眠を改善する薬が、薬局で買える睡眠改善薬です。

ヒスタミンは、脳を目覚めさせておく働きがあります。抗ヒスタミン剤は、そのヒスタミンをブロックすることで、催眠効果が発揮されます。抗ヒスタミンのうち「塩酸ジフェンヒドラミン」が、睡眠改善薬としてアメリカやイギリス、ドイツ、カナダで売られています。日本でも、1回あたり1人1個のみ薬局で買えます。「ドリエル(エスエス製薬)」、「ナイトール(グラクソ・スミスクライン)」、「ネオデイ(大正製薬)」、「グ・スリーP(第一三共ヘルスケア)」などはすべて、塩酸ジフェンヒドラミンを主成分とした睡眠改善薬です。

薬局で買える薬ですが、妊娠している人やその可能性がある人、授乳中の人、15歳以下の子ども、すでに不眠症の診断を受けている人は飲むことができません。また、緑内障や前立腺肥大症の人、排尿困難な人、アレルギー体質の人、医療機関に通院中の人は、買う前に医師か薬剤師に相談してください。

睡眠改善薬も眠る直前に飲んで、飲んだらすぐに寝床に入りましょう。また、副作用を減らすために、他の催眠鎮静薬や風邪薬、解熱鎮痛薬、鎮咳去痰(ちんがいきょたん)薬、抗ヒスタミン剤を含有する内服薬(鼻炎用内服薬、乗り物酔い薬、アレルギー用薬)とは一緒に飲まないでください。また、急に眠気が襲ってきたりすると危険ですから、服用後は乗物や機械類の運転操作をしてはいけません。

雨晴クリニック 坪田 聡先生
睡眠専門医。医師、医学博士。
医師として快眠習慣の普及に努めるほか、行動計画と医学・生理学の両面から、睡眠の質の向上に役立つ情報を発信。睡眠に関する著書多数あり。
日本睡眠学会、スポーツ精神医学会、日本医師会所属。

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