【ドクターズコラム】快眠にお勧めの「食材」と睡眠の質を悪くする「食習慣」

【ドクターズコラム】快眠にお勧めの「食材」と睡眠の質を悪くする「食習慣」

食べるもの食べ方によって、睡眠の質が大きく変わります。ここでは、グッスリ眠るために食べておきたい3つの食材と、眠る前には避けておく方が良い食習慣5つをご紹介します。

食べておきたい3つの食材①グリシンが眠りを深くする

タンパク質は、アミノ酸からできています。アミノ酸の中で、もっとも単純な形をしているのが「グリシン」です。グリシンは、体のあちこちにあります。たとえば、皮膚のコラーゲンを作っているアミノ酸は、3分の1がグリシンです。また、赤血球や肝臓の成分としても、大切な役割を果たしています。

グリシンは、睡眠に関して良い作用を表します。

睡眠に問題がある人に、就寝30分前に3グラムのグリシンをとってもらい、翌朝や日中の状態を調べた研究があります。いつもは、頭がスッキリしない・寝ても疲れがとれない・熟眠感がない・やる気が出ないと言っていた実験参加者が、朝はスッキリと起きることができ、日中の作業効率も良くなることが分かりました。

睡眠中の脳波でも、寝つくとすぐに深い睡眠に入り、眠りのパターンもより自然なものに近づく結果が出ています。この効果は、グリシンが脳の体内時計に作用して、睡眠のリズムをうまく調整するためではないか、と考えられています。

グリシンは、人の体のあちこちにありますが、食べ物にも広く含まれています。特に、エビ・ホタテ・イカ・カニ・カジキマグロなどの魚介類に多く含まれていて、うまみ成分にもなっています。

食べておきたい3つの食材②トリプトファンで昼間パッチリ夜グッスリ

睡眠をコントロールしている脳内物質の「セロトニン」「メラトニン」は、必須アミノ酸の1つである「トリプトファン」から作られます。

セロトニンが少なくなると、気分が沈み、不眠にも悩まされます。逆に多すぎると、不安が強くなったり、興奮してキレやすくなったりします。ちょうど良い量があれば、気持ちが落ちついて、心地よく眠れます。

「睡眠ホルモン」と呼ばれているメラトニンは、セロトニンから作られます。朝起きて、太陽の光を浴びてから14~16時間たつと、脳でのメラトニンの分泌が増えて、だんだん眠たくなってきます。メラトニンは、時差ボケの治療にも使われ、アメリカでは睡眠サプリメントとしても飲まれています。

トリプトファンは、牛乳や乳製品、豆・豆製品、バナナ、アボカド、肉類、スジコ、タラコに、比較的多く含まれています。特に、トリプトファンを朝にとると、日中は気分が安定して眠気も少なく、夜になるとぐっすり眠れます。

ところで、サプリメントでトリプトファンを大量にとるのは、危険ですから止めておきましょう。好酸球増多筋痛症候群という健康障害を引き起こした事例も報告されているので、十分な注意が必要です。

食べておきたい3つの食材③ギャバは睡眠薬のターゲット

脳や脊髄にある神経伝達物質の1つである「ギャバ(ガンマ-アミノ酪酸)」には、興奮を抑えてリラックスさせる作用があります。医師が処方する睡眠薬の多くは、脳の中でギャバの作用を強めて、眠らせようとするものです。

睡眠以外の効果では、自律神経の障害による不安やイライラの緩和、アルツハイマー型認知症の予防・改善、軽症高血圧患者での血圧低下、腎臓や肝臓の機能改善、肥満の防止などの報告もあります。

食材では玄米や胚芽米、アワ・キビ・ヒエ・大麦などの雑穀、漬物、小魚、トマト、スプラウト(発芽野菜)、ココア、チョコレートなどにギャバが含まれています。玄米が発芽すると、さらにギャバが増えます。発芽玄米には、白米の約10倍のギャバが含まれると言われています。

最近では、ギャバの量を増やして特定保健用食品とした、チョコレートや緑茶なども買えるようになりました。一度、試してみてはいかがでしょうか。

避けておく方が良い食習慣5箇条①食べてすぐ眠るのは NG です

食事をしてお腹がふくれると、眠くなります。これは、「満腹ホルモン」と呼ばれるレプチンなどの働きによるものです。また、昼食後の眠気は、生体リズムによる眠気のピークが午後2~4時頃にあることも影響しています。

しかし、夕食後すぐに眠ると、夜の睡眠の質が悪くなります。胃腸が盛んに働いているあいだは、深く眠れないからです。理想的には夕食の後、3時間ほどあけてから眠るようにしましょう。そのころには消化も一段落して、眠りやすくなります。

夜遅くまで仕事をしていて、眠る直前にやっと夕食をとっている人は、「分食」がお勧めです。夕方にパンやおにぎりなどを少し食べておいて、深夜の食事量を減らす方法です。こうするとグッスリ眠りやすく、翌朝の胃もたれも軽くなります。

 

避けておく方が良い食習慣5箇条②夕食に消化が悪いものは禁!

夜、眠るまでに3時間以上の余裕があるときでも、消化が悪いものを食べるのは避けましょう。

胃で食べ物が消化されて腸へ送られるまでの時間を、「胃内停滞時間」といいます。食べ物100グラム当たりの胃内停滞時間は、果物が1~1.5時間野菜は2~2.5時間ご飯やパン、メン類で2.5~3時間です。一方、揚げ物やステーキは、胃の中に4時間以上も残ってしまいます。

日本人は、夜にごちそうを食べる習慣があります。しかし、質の良い睡眠を求めるなら、夕食は消化の良い炭水化物を中心として、タンパク質や脂肪分は少なめにすることが勧められます。

避けておく方が良い食習慣5箇条③夜食にインスタント食品は最悪!

夕食を食べた後でも、遅い時刻まで起きているとお腹がすいてきます。そんなとき、魅力的に見えるのが、インスタント食品やスナック菓子です。手軽に食べられて美味しいので、ちょっと小腹がすいたときには便利です。

しかし、ここに落とし穴があります。インスタント食品やスナック菓子、レトルト食品、練り製品を食べたり、清涼飲料水を飲んだりすると、気持ちが高ぶって眠れなくなることがあるのです。

これらの食品には、変質を防ぐために「リン酸塩」が多く含まれています。リン酸塩は、亜鉛の吸収を妨げ、カルシウムの排泄を増やします。亜鉛やカルシウムが不足すると、気持ちが安定せず、イライラしたり落ち込んだりします。その結果、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりし、睡眠の質が悪くなったりするのです。

避けておく方が良い食習慣5箇条④寝酒は快眠の敵

寝酒は日本だけでなく、欧米などでも親しまれています。眠れないときに、日本人の2~3割が寝酒を飲んでいます。これは、睡眠薬を飲む人よりも多く、世界的に見ても高い割合です。

アルコールを飲むと、寝つきが良くなるのは確かです。しかし、睡眠の質は悪くなります。時間とともにアルコールが分解されて、血液中のアルコールの濃度が低くなると、覚醒効果が現れるからです。

また、アルコールは睡眠中の尿の量を増やします。そのため、トイレに行きたくなって目が覚めやすく、睡眠がこま切れになってしまいます。さらに、眠るためにアルコールを飲んでいると、だんだんお酒に強くなって飲む量が増え、アルコール依存症になる危険もあります。

避けておく方が良い食習慣5箇条⑤隠れカフェインに要注意

眠る前には、コーヒーやお茶を飲まないようにしている人がいます。これらに含まれているカフェインが、寝つきを悪くすることを知っているからです。カフェインは、脳の中にたまってきた「睡眠物質」の働きをブロックして、眠気を感じなくさせる働きがあります。

ちょっと小腹がすいたときにチョコレートを食べたり、寒い時期にホットココアを飲んだりしていませんか? これらのカカオ豆からできた飲食物にも、カフェインが含まれているので、夜遅くは控えたほうが無難でしょう。

また、眠る前に今日の疲れをとろうと思って飲む栄養ドリンクにも、注意が必要です。栄養ドリンクには覚醒度を高めるために、カフェインが入っているものが多いからです。就寝前に飲むなら、カフェインレスの栄養ドリンクを選んでください。

雨晴クリニック 坪田 聡先生
睡眠専門医。医師、医学博士。
医師として快眠習慣の普及に努めるほか、行動計画と医学・生理学の両面から、睡眠の質の向上に役立つ情報を発信。睡眠に関する著書多数あり。
日本睡眠学会、スポーツ精神医学会、日本医師会所属。

ブログに戻る