【ドクターズコラム】「人はどのくらい眠らなくても生きられるのか?」

【ドクターズコラム】「人はどのくらい眠らなくても生きられるのか?」

■断眠の世界最長記録は11日間

1964年に米国の高校生ランディー・ガードナー君が、クリスマス休暇の自由研究のために、それまでのギネスブックの断眠記録260時間に挑戦することを思い立ちました。もともと彼は、1日平均7時間弱の睡眠をとる普通の高校生でしたが、睡眠の専門家の立ち合いのもと、264時間12分の断眠記録を打ち立てて、ギネスブックに新記録と認定されました。

断眠マラソンが終了したあと、ガードナー君は14時間40分眠り続けました。そのあとも数日間は通常よりも長い睡眠時間をとっていましたが、次第にもとの生活パターンに戻って高校生活を続けました。身体的にも精神的にも、全く後遺症は残りませんでした。

これ以降も断眠記録に挑戦する人はいましたが、「眠らないこと」が明らかに人体に危険であることから、ギネスブックでは断眠記録を載せなくなりました。

■眠らないと人はどうなるか

この挑戦に立ち会った睡眠の専門家ウィリアム・C・デメント博士によると、ガードナー君は3日目の夜からウトウトしかけて、ラジオを聴いたり、バスケットボールやドライブをしたりして眠気をまぎらわせました。日を追うごとに、深夜から早朝の時間帯、特に午前3時から7時の眠気が強くなり、起こしておくのに苦労したそうです。断眠中は次第に分析力や記憶力、知覚、運動能力、熱意が低下し、足し算や車の運転が難しくなりました。また、誇大妄想や被害妄想も生じています。

完全な断眠でなくても、睡眠不足が積み重なるだけでいろいろな症状が現れます。睡眠不足のため脳の働きが低下するので、強い疲労感や倦怠感、無気力、意欲低下、落ち着きのなさ、注意力散漫、協調性の欠如、攻撃性の高まりなどが見られます。また、食欲不振や胃腸障害、筋肉痛を訴えることもあります。睡眠不足の状態が長く続くと、次第に不安が強くなりうつ状態になることもあります。

思春期前の子どもの場合は睡眠不足がひどくても、自分から眠気を訴えないことがあります。そのような場合でも、不機嫌や注意力散漫、食欲不振など、眠気が原因と思われる行動異常が見られます。

睡眠不足は、病気や寿命とも関係しています。睡眠不足が続くと、免疫力が落ちて風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。

また、肥満や高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病にもなりやすく、いったん発症すると進行がはやくなります。うつ病などの精神病の発症リスクも高まります。そして最後には、寿命が短くなってしまいます。

■睡眠不足のときの強い眠気への対策

睡眠不足の対策の基本は、必要十分な睡眠をとることです。しかし、そうも言っていられないのが現状でしょう。眠気への対策には、眠気にしたがう方法と眠気に対抗する方法があります。

眠気にしたがって、仮眠をとるのが一番良い方法です。できれば午後3時までに、20分以内の仮眠をとりましょう。横にならず椅子などに座ったまま、背もたれにもたれかかったり机に突っ伏したりして眠っても目覚めがすっきりします。

眠気に対抗する方法には、以下のものがあります。

  • カフェインをとる
  • 日光や強い光を浴びる
  • 体を動かす:ガムをかむ、歩く、歌う
  • 冷たい刺激を受ける
  • 人と会話をする
  • 甘いものを食べる
  • アロマの香りをかぐ:ローズマリー、ペパーミント、ユーカリなど
  • ツボを押す:中衝、労宮、合谷など
睡眠時間を2時間削るだけで、飲酒運転のレベルまで脳の働きが落ちてしまします。

できれば睡眠時間をしっかり確保して、すっきりした頭で毎日を乗り切りたいものです。

雨晴クリニック 坪田 聡
睡眠専門医。医師、医学博士。
医師として快眠習慣の普及に努めるほか、行動計画と医学・生理学の両面から、睡眠の質の向上に役立つ情報を発信。睡眠に関する著書多数あり。
日本睡眠学会、スポーツ精神医学会、日本医師会所属。

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