紫外線の強い季節になってきました。ご存知の通り、日光に含まれる紫外線は、皮膚がん発症の危険性を高めるばかりでなく、シミ、ソバカス、シワなどの皮膚老化の原因でもあります。一方で、光は、私達の体を維持するための、重要な意味を持っています。
■概日リズムと時計遺伝子
私たちの体の1日のリズムは、概日リズムとも呼ばれ、体内時計によって維持されています。昼と夜の周期は、あらかじめ体内にセットされているために、昼夜の時間帯が異なる地域に移動すると、時差ボケが生じるわけです。この体内リズムを司るのは、視交叉上核と呼ばれる脳の奥深くにある小さな部分です。視交叉上核は、眼から入った光の情報を伝える視神経と繋がった部分であるために、全盲などの状態で、視力が著しく低下している場合、体にとっての昼のシグナルである光が入らなくなります。結果として、このリズムが乱れて、睡眠障害になる事があります。
■皮膚と光、時計遺伝子
光に敏感な視交叉上核には、時計遺伝子と呼ばれる遺伝子が多く発現していて、昼夜の周期のみならず体温調節、ホルモン分泌などの周期までも調節していると言われています。ですから、生まれつきに時計遺伝子がうまく働かない状態、つまり遺伝子に変異がある場合、概日リズムが障害されます。文字通り、体内時計がずれているというわけです。噛み砕いて言うと、遺伝子変異が原因で極端な“早寝早起き”や“遅寝遅起き”の“体質”になっているという事です。
■皮膚バリア機能と睡眠の関係の重要性
一方で、眼の光センサー、つまり網膜が働かないマウスや、全盲者でも、光によって概日リズムを調整できる事が以前から知られていました。さらに、まだ実用化はされていませんが、膝裏に人工光を当てる事によって、このリズムが修正可能であることもこれまでに示されてきました。
つまり、光に敏感なのは、眼〜視神経〜視交叉上核のシステムのみではなく、体の表面を覆い尽くしている、他ならぬ皮膚である可能性があるわけです。さらに、近年になって皮膚にも時計遺伝子の発現が確認され、周期的な成長を繰り返す毛穴(毛嚢)の機能を調節している可能性も示されてきました。ここから考えれば、発汗や脂の分泌はもとより、皮膚は周期的な再生を繰り返す臓器なので、バリア機能の制御にも時計遺伝子が関与している可能性があると言えるでしょう。私は今までに、皮膚バリア機能と睡眠の関係の重要性を、いくつかの科学的なデータを交えて解説してきましたが、こうして科学に思いをはせてみると、ヒトやマウスといった生体のレベルではなく、遺伝子や蛋白質といった分子のレベルでこのメカニズムが今後明らかにされれば、もしかすると睡眠障害を改善する塗り薬や、入浴剤などといった、科学的根拠に基づいた、斬新なアプローチが可能となる日も来るかもしれません。
■科学の無限の可能性への祈りと、生命に対する畏敬
皮膚は単なる“レンガとモルタル”の外壁ではなく、侮ることのできない、精緻なメカニズムをもつ立派な臓器であり、まだまだ解明されていない事も沢山あることを感じていただけたかと思います。
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この先生が監修しました。
Michael Lee(マイケル·リー)
若々しく力強い生き方の専門家
米国Duke大学卒業
大学病院で医師として様々なライフスタイルの患者を治療
Johnson & JohnsonでPMとして医薬品開発に参加
レイコップ株式会社で代表開発者としてQuality of Lifeに関連した製品を開発_____________________________________________________________