「昨日の夜もまたよく眠れなかった……」
そんなつらい気持ちで朝を迎えていませんか?
40代や50代になると、寝つきが悪くなったり、明け方に一度は目が覚めたりすることを、当たり前のことだと思ってしまいがちです。しかし、そのような睡眠の乱れが続く場合は、脳が毎晩行うはずの「毒性物質の掃除」がうまくできていないサインの可能性があります。
実際に、55歳以降の睡眠不足は認知症の発症リスクを最大2.5倍に高めるという衝撃的な研究結果もあります。それでも、「もう歳だから仕方ない」と睡眠薬に頼るのは避けたいと感じる方も多いでしょう。本記事では、加齢による睡眠の変化とその背景を理解し、薬に頼らずに熟睡を取り戻すための科学的な方法を四つ紹介します。最後まで読んでいただければ、もう睡眠のことで悩むことはなくなるはずです。
睡眠はなぜ大切?|体と脳を整える「夜のメンテナンス時間」

私たちが日中の活動でエネルギーを使うと、体の中には「炎症物質」や「酸化物質」などの老廃物が溜まっていきます。これらが蓄積すると細胞が傷つき、場合によっては遺伝子の変異を引き起こして、さまざまな病気のリスクにつながります。
幸いなことに、こうした老廃物の多くは睡眠中の7~8時間で取り除かれます。特に、深い睡眠では免疫細胞が活発に働き、血管を通って全身を巡りながら老廃物を掃除します。良質な睡眠とは、私たちの体をしっかりと回復させ、生まれ変わらせるためのプロセスなのです。
脳は体重のわずか2%しかありませんが、全エネルギーの30%、心拍出量の25%を使うほど活動量が多く、その分老廃物も大量に発生します。深い睡眠に入ると、脳の清掃システムである「グリンパティック・システム(Glymphatic System)」が働き、アルツハイマー病の原因となる「ベータアミロイド」や「タウタンパク質」などの老廃物を脳の外へ洗い流します。
55歳以降に眠れない状態が続くと、脳の老化が進むだけでなく、老廃物が蓄積しやすくなり、認知症の発生率が2倍から2.5倍に高まるという研究報告もあります。睡眠は単なる休息ではなく、日中に傷ついた体と脳を修復し、回復させるために欠かせない「治癒の時間」なのです。
年齢とともに睡眠パターンが変わる4つの理由

年齢を重ねると、「昔のようにぐっすり眠れない」「夜中に何度も目が覚める」といった悩みが増えてきます。
ここでは、年齢とともに睡眠パターンが変わる4つの理由を分かりやすく解説します。
脳の「体内時計」の衰え
第一の理由は、脳の「体内時計」が古くなり、働きが鈍くなるからです。
脳の中心部にある「視床下部」には体内時計が備わっており、私たちがいつ眠り、いつ起きるべきかを調整しています。しかし、この部分は脳の中でも特に老化が早い場所の一つです。古い時計の時間が狂いやすくなるのと同じように、50歳を過ぎると体内時計の働きが弱まり、睡眠と覚醒のリズムが乱れやすくなります。
その結果、以前は深夜まで起きていられた人でも、20時~21時といった早い時間に強い眠気を感じるようになるのです。
光の刺激が弱まる
第二の理由は、「光」という信号が脳に正しく伝わりにくくなるためです。
体内時計を調整するうえで最も強力な刺激は光ですが、年齢を重ねるにつれて、白内障や緑内障、糖尿病性網膜症などの影響で目の機能は低下していきます。その結果、若い人と同じように日光を浴びていても、脳の体内時計に届く光の量が大きく減ってしまうのです。
本来は、日中に十分な光の刺激を受け取ることで夜の睡眠準備が整います。しかし、その光の信号が弱くなることで、生体リズムが乱れやすくなると考えられています。
メラトニンの減少
第三の理由は、睡眠ホルモンである「メラトニン」が急激に減少するためです。
メラトニンは脳の松果体から分泌される、いわば天然の睡眠薬のようなホルモンですが、これもまた加齢の影響を免れることはできません。55歳になると分泌量は10代の頃の約半分に減り、70歳ではわずか30%ほどしか残らなくなります。
本来、睡眠を深く保つ働きを持つこのホルモンが不足することで、夜中に何度も目が覚めてしまうのです。
疲労を感じにくくなる
第四の理由は、体が「疲労」を感じる力そのものが鈍くなるからです。
私たちは活動すると脳に「睡眠物質」が溜まり、それが十分に蓄積すると疲労を感じて眠りにつきます。しかし、年齢を重ねると、この睡眠物質を受け取る「受容体」の数が減っていきます。その結果、たくさん歩いたり活動したりしても、体が感じる疲労は若い頃の50~70%ほどにとどまってしまいます。
本来、深く眠るためには「十分な疲労」が原動力になりますが、その原動力が不足してしまうのです。
熟睡を取り戻すためのソリューション

体に起きている変化、つまり原因が理解できたところで、次は対策について考えていきましょう。
睡眠薬に頼る前に、今日からすぐに始められる4つの行動ソリューションを紹介します。
体内時計を整える「睡眠ルーティン」をつくる
一つ目の対策は、「睡眠ルーティン」で衰えてきた体内時計を補う方法です。脳の自動調整機能が弱くなっているため、自分自身で睡眠リズムを設計することが重要になります。
時間を決める
「6時に起き、23時に寝る」というように、6~7時間の睡眠を確保できるスケジュールを設定します。
夕方の活動
寝る3時間前の19時~20時頃には軽い散歩をしたり、天気が悪い日は室内で軽い運動をしたり、明るい光を浴びたりすることも効果的です。体を動かすことで眠気を防ぎ、生体リズムが整いやすくなります。
寝る前の1時間
22時になったらスマートフォン、パソコン、テレビなどブルーライトを発する電子機器はすべてオフにします。電球色の柔らかいLEDライトだけをつけ、ストレッチや腹式呼吸、瞑想などのリラクゼーションを30分~1時間行いましょう。そして22時半~23時の間に布団に入ります。
上記のような習慣を1~2週間続けるだけでも、夜中に目が覚める時間が徐々に遅くなっていくのを実感できるはずです。
日光と運動で「体の管理」を整える
二つ目の対策は、「体の管理」を通じて脳に届く光の量を増やす方法です。日中、特に午前中にしっかりと太陽の光を浴びることで、脳の体内時計に「今は活動の時間だ」という強い信号を送ることができます。
また、ケトジェニックダイエットやオートファジー、さらにはZone 2の有酸素運動を取り入れ、肥満や糖尿病などの慢性疾患を防ぐことも非常に重要です。スタンフォード医科大学の研究では、Zone 2の有酸素運動を週3回以上、30分以上行っている50~60代の人は、脳の活性度と容量が20%以上増加し、認知機能と睡眠の質が向上することが証明されています。
もちろん、運動が面倒だと感じる気持ちはよく分かります。しかし、その一歩を踏み出してトレッドミルの上で30分走ってみてください。「今日の決断の中で一番良かった」ときっと感じられるはずです。
「入眠儀式」で脳を眠りに導く
三つ目の対策は、「入眠儀式」を取り入れて、減少したメラトニンの役割を補う方法です。就寝の30分~1時間前から、毎日同じルーティンを行うことで、脳に「そろそろ眠る時間だ」という合図を送ることができます。これを習慣化すれば、自然と眠りに入りやすくなります。
入浴
入浴は、最も効果的な入眠儀式の一つです。単に体を温めるだけでなく、科学的にも睡眠を促す作効果があるとされています。鍵となるのは「深部体温」のコントロールです。
人は、体の奥の温度である深部体温が下がり始めると眠気を感じます。就寝の約2時間前に42度ほどのお湯に10分浸かると、一時的に深部体温が上昇します。その後、2時間ほどかけてゆっくり元の体温に戻る過程で、自然に深い眠りへと導かれるのです。
4-7-8腹式呼吸
寝る30分前に、鼻から4秒かけて息を吸い、お腹をふくらませます。続いて7秒間息を止め、最後に口から8秒かけて、お腹が背中に近づくイメージでゆっくり息を吐き出します。
プログレッシブリラクゼーション
漸進的筋弛緩法とも呼ばれる方法です。体の一部を息を吸いながら5秒間ギュッと緊張させ、息を吐きながら一気に力を抜く方法です。拳、腕、肩、脚、足指、顔(顔をしかめる動き)など、全身を順番に行います。
これらの儀式は、脳に「もう寝る時間だ」という強力な信号を送り、自然な入眠を助けてくれます。
「活動量」を増やして睡眠力を蓄える
四つ目の対策は、「睡眠の力」を高めて、加齢によって鈍くなった疲労への感受性を補う方法です。この対策の目的は、単に「疲れること」ではなく、日中にしっかりと「睡眠圧」を蓄えること。つまり、活動量そのものを増やすという考え方です。
体はあまり疲れていないように感じても、日光を浴びる、人と会う、何かに集中するなど、意欲的に生活をすること自体が、夜の睡眠に必要なエネルギーを蓄えるプロセスになります。「疲労感」という主観的な感覚に頼るのではなく、「どれだけ行動したか」という客観的な活動量に意識を向けるようにしましょう。
睡眠補助剤と薬についての正しい理解

メラトニン
メラトニンは睡眠導入剤ではなく、生体リズムを整えるためのホルモンです。そのため、睡眠と覚醒のリズムが乱れている人には非常に効果的です。これまで紹介した方法で十分な効果が得られない場合は、医師に相談し、低用量のメラトニンを処方してもらうのも一つの選択肢になります。一方、緊張や不安が原因で眠れない人には、メラトニンの睡眠導入効果はほとんど期待できません。そのようなケースでは、先ほど紹介したリラクゼーション法のほうが、はるかに効果的です。不安感が強い場合は、薬よりも緑茶やプロテインパウダーで「テアニン」を補ったり、GABA、L-セリン、ラフマ、マグネシウムといったサプリメントを活用してみると良いでしょう。
睡眠薬
睡眠薬を飲めば眠ること自体はできますが、体を回復させる深い睡眠と、脳を回復させるレム睡眠の両方が失われてしまいます。これは鎮痛剤に例えると分かりやすいでしょう。一時的に痛みを感じにくくしても、痛みの原因そのものは治せないのと同じで、睡眠薬も不眠の根本的な問題を解決してはくれません。
さらに、一度飲み始めると依存しやすく、やめにくくなるリスクもあります。そのため、睡眠薬の使用はあまりおすすめできません。
睡眠の質を低下させるその他の要因

睡眠の質は年齢や生活習慣だけでなく、さまざまな要因によっても大きく左右されます。
ここでは、睡眠の質を低下させるその他の要因について見ていきましょう。
逆説性不眠症
周囲から見るとしっかり眠れているように見えるのに、本人は眠れていないと感じるケースです。これは、「よく眠らなければ健康に悪い」といった思い込みが強かったり、性格的に敏感であるために実際の睡眠の質を過度に低く評価してしまったりすることが原因と考えられています。
朝起きたときや昼間の活動中に強い眠気を感じないのであれば、まずは「自分は大丈夫だ」と信じてあげることが大切です。
夜間頻尿
夜中にトイレに起きるのも、熟睡の大きな妨げになります。健康な膀胱は約300ccの尿をためられますが、加齢によって膀胱の機能が弱まると、200ccほどで尿意を感じるようになります。また、男性は前立腺の問題、女性は膀胱炎や尿失禁などが夜間頻尿の原因になることもあります。
さらに、不眠症や睡眠時無呼吸症候群で眠りが浅くなると、心拍数が上がり、尿の生成を促すホルモン(心房性ナトリウム利尿ペプチド)が分泌され、夜間頻尿が悪化するケースも存在します。
気になる症状がある場合は泌尿器科を受診して、身体的な問題がないかを確認し、必要な治療を受けることが重要です。
基礎疾患や薬の副作用
気管支喘息や関節炎、腰痛などの症状そのものが睡眠を妨げることもあります。さらに、高血圧の薬の一部(ベータ遮断薬)、気管支喘息の薬、ステロイド、一部の抗生物質など、服用している薬が原因で眠りにくくなるケースも見られます。このような場合は、眠りを妨げる薬は朝に、逆に眠気を誘う薬は夕方に服用するなど、主治医と相談して服薬のタイミングを調整することも有効な方法の一つです。
まとめ

熟睡のための大切なポイントは次の通りです。
睡眠ルールの設定
毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きる習慣をつくり、弱くなった体内時計をリセットしましょう。
Zone 2トレーニングの継続
脳機能を活性化させ、糖尿病などの慢性疾患による目の合併症を防ぎ、脳に届く光の量を確保します。
入眠儀式の導入
4-7-8腹式呼吸や筋弛緩法などを取り入れ、自分だけの入眠ルーティンをつくりましょう。副交感神経が高まり、GABAの分泌も促されます。
サプリメントやメラトニンの利用
GABA、L-セリン、ラフマなどを含む睡眠サプリや、医師の処方による低用量メラトニンを活用するのも有効です。
健康問題の確認
夜間頻尿や服用中の薬が睡眠を妨げている可能性もあるため、医師に相談して根本原因を把握し、適切に管理することが大切です。
これらの対策を日常に取り入れることで、年齢に左右されない質の高い睡眠が手に入るはずです。不眠症にお悩みの方は、ぜひ試してみてください。
この先生が監修しました。

Dr. マイケル・リー
アメリカ・デューク大学2002年卒業。
大学卒業後、大学病院の医師として様々なライフスタイルの患者の治療に従事。
その後、治療現場の経験を生かし、アメリカの大手製薬メーカーJohnson & Johnsonで
医療製品開発の実務経験を積み、2012年にレイコップ株式会社を設立。
医師として、また開発者として、
「人々の暮らしをより健康で豊かに(Better Quality of Life)」という信念に基づき、
「暮らしの中の予防医療」を目指し、日々の生活習慣に溶け込むような製品の開発に取り組んでいる。






