ダイエットにチャレンジした経験がある方なら、「水をもっとたくさん飲むように」というアドバイスを聞いたことがあるかもしれません。特に、食事の前に一杯の水を飲むことはダイエットに効果的だとも言われています。
たしかに、食事の前に水を飲むと空腹感が和らぎ、食べ過ぎや早食いを防ぐことができます。しかし、だからといって本当にダイエット効果があるのでしょうか。
また、一日中こまめに水を飲むことはダイエットにどんな影響を与えるのでしょう。
なぜ水を飲むことはダイエットに役立つと言われるのかについて、この記事では理由や効果を詳しく解説していきます。
食事前の水分補給がダイエットに効果的と言われる3つの理由
食事の前に水を飲むとダイエット効果があるとされる主な理由は、以下の3つです。
- 理由①:お腹がいっぱいになり食欲を抑えられる
- 理由②:「熱産生」によってカロリーが消費される
- 理由③:喉の渇きと空腹感を混同している
それぞれの詳しい内容や正誤性について見ていきましょう。
理由①:お腹がいっぱいになり食欲を抑えられる
前述の通り、食事の前に水を飲んで空腹感を和らげることは、一見するとダイエット効果があるように思われます。
なぜなら、胃は体積の増加を感知し、その情報を脳に伝えることで「満腹だ」と感じさせるメカニズムを持っているからです。食事の前に水を飲むことで胃が膨らみ、食欲を抑制する信号が脳に送られることで、食事の量を減らすことができると考えられています。
実際にこの考えを裏付けるいくつかの研究もあります。
例えば、食事の前にコップ一杯の水を飲んだ人は、飲まなかった人に比べて食事の摂取量が少なくなるというデータがありました。
また、低カロリーの食事を12週間続けたグループを調べた結果、食事の前に水を飲んだグループは、水を飲まなかったグループと比べて食欲が抑えられ、より多く体重が減少したことがわかりました。
ただし、いずれの研究も、水を多く飲むことが長期的な体重減少にどのような影響を与えるかまでは評価しきれていないのが実情です。
参考資料:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17228036/
参考資料:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19661958/
理由②:「熱産生」によってカロリーが消費される
私たちが飲んだ水は体内で体温にまで温められる必要があり、その過程で身体はエネルギーを消費します。これまで、このエネルギー消費(熱産生)によって、食事から摂取したカロリーの一部を相殺できると考えられてきました。
過去には、この理論を裏付ける証拠がいくつか報告されていました。しかし、最近の研究では、水を飲むことで多くのカロリーが消費されるという明確な証拠は見つかっていません。
このため、近年は「水を飲むと熱産生によってカロリーが消費される」という考えに対して、疑問が投げかけられています。
参考資料:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26690288/
理由③:喉の渇きと空腹感を混同している
喉が渇いてキッチンへ行ったのに、つい食べ物を探してしまった経験はありませんか?
実際にはお腹が空いているわけではなく単に喉が渇いているだけなのに、余計なものを食べてしまい、結果的に体重が増えてしまう。
そんな経験のある人も多いのではないでしょうか。
この場合、食べ物ではなく水を飲むことで余分なカロリーを摂らずに済み、減量に役立つ可能性があります。
ただし、喉の渇きと空腹感を調整する体のメカニズムは非常に複雑で、年齢によっても異なると考えられています。
たとえば、高齢者は若者に比べて喉の渇きを感じにくいことがあります。
しかし、喉の渇きと空腹感は混同されやすいという説や、水を飲むことが体重減少につながるという説を裏付ける決定的な研究結果は、現時点では見つかっていません。
水を飲むことはダイエットにどこまで効果的なのか
ここまで、食事前の水分補給がダイエットに効果的と言われる理由について説明をしてきました。しかし、今の段階においては、いずれの理由も明確な根拠に基づくとは言い難い状況です。
食事前に限らず、水を飲むことはダイエットにどこまで効果的なのでしょう。
ここからは、以下の仮説をもとに、水分補給とダイエットの関連性について考えていきます。
仮説①:水分補給は運動によるダイエット効果を促進する
仮説②:高カロリーの飲み物を水に切り替えると体重が減少する
仮説③:水分補給が脂肪の燃焼を促す
仮説①水分補給は運動によるダイエット効果を促進する
筋肉の疲労やけいれん、熱中症などの症状は、脱水によって引き起こされることがあります。そのため、運動前には水分補給を行うことが推奨されています。特に、気温の高い屋外で激しい運動をするアスリートには、積極的な水分補給が勧められています。
一方、ウォーキングや軽いジョギングなど、一般的な運動を行う人にとって、運動前の水分補給は必ずしも必要ではありません。
また、「運動による体重減少」に対する水分補給の効果を具体的に調査した研究も、現時点では見つかりませんでした。
仮説②:高カロリーの飲み物を水に切り替えると体重が減少する
高カロリーの飲み物(炭酸飲料、ジュース、アルコールなど)を水に切り替えると、その分のカロリー摂取量が減り、長期的には減量につながる可能性があります。
この考えを研究で実証するのは難しいものの、間接的な証拠からは、「高カロリー飲料を水に切り替えること」と「体重減少」との間に関連性が見られています。
とはいえ、カロリー制限ダイエットが長続きしにくいのと同様に、すべての飲み物を水だけに切り替えるのも難しいのが現実です。
仮説③:水分補給が脂肪の燃焼を促す
体が脱水状態になると、脂肪を燃料として分解する能力が低下します。しかし、十分な水を摂取することで脂肪分解が促進され、最終的には体重減少につながる可能性があります。
この考えは一部の動物実験では裏付けられていますが、人間を対象にした研究では、水分補給が脂肪の燃焼を促進し、体重減少を促すという明確な証拠はまだ見つかっていません。
まとめ
ダイエットをしたい場合、食事の前や食事中、さらには1日のさまざまなタイミングで積極的に水分補給をするべきでしょうか?
今回の記事で紹介した一部の研究においては、少なくとも一定の人々にとって、水分補給はダイエットに役立つ可能性が示唆されています。
しかし、これらの研究は規模が小さく、検証期間が短かったり、動物実験のデータに基づいていたりするものがほとんどです。また、ポジティブな研究においても、明らかな効果は実証できていません。
多くの人が「水をたくさん飲むと減量に役立つ」と勧めていますが、現時点において確かな根拠はなく、説得力の弱い理論に基づいていると言わざるを得ないでしょう。
ただし、多少なりともダイエット効果が期待できるのであれば、「水を少し多めに飲む」という行為自体にデメリットはありません。
脱水症状などを防ぐためにも、日ごろから適度な水分補給を心がけることをおすすめします。
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この先生が監修しました。
マイケル リー 医師
アメリカDuke(デューク)大学卒業。
大学病院で医師として様々なライフスタイルの患者を治療。
アメリカの大手製薬メーカーで医療製品開発の実務経験を積んだ後、
2012年レイコップ株式会社を創業。
代表開発者としてQuality of Life(クオリティオブライフ)に関連した製品を開発。
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