なんとなくイライラしてしまったり、夜に眠れなかったり、突然顔が熱くなったり——そんな経験を「もう歳だから」「更年期だから仕方ない」と一人で抱え込んでいませんか。
更年期の主な原因として、多くの医師が指摘するのは「女性ホルモン(エストロゲン)の減少」です。たしかに、年齢を重ねるにつれて女性ホルモンの分泌が低下すること自体は事実です。しかし、その一方で重要な視点が見落とされています。それは、「なぜ同じようにホルモンが減少しているのに、人によって症状のつらさが大きく異なるのか?」という点です。
この疑問に対する答えは、単なるホルモンの変化だけでは説明できません。日々の生活習慣、ストレスの溜まり具合、全身の健康状態など、複数の要因が重なり合うことで、症状の深刻さが左右されると考えられています。つまり、エストロゲンが減るという共通の変化に加えて、もともとの体調やコンディションの差が影響し、症状に大きな差が生まれるのです。
本記事では、更年期に見られる代表的な症状や、その背景にある根本原因、そして症状の強さを左右するさまざまな要因について、わかりやすく解説します。あわせて、これらの変化とうまく付き合い、心と体のバランスを整えるための総合的なアプローチもご紹介します。
症状の原因と深刻さを決定づける要因

更年期にあらわれる症状には、大きな個人差があります。その理由を理解するためには、更年期症状がなぜ起こり、どの要因が深刻さを左右するのかを知ることが重要です。
更年期障害は、ホルモンの変化だけでなく、日頃の生活習慣やストレス、基礎疾患など複数の要素が重なり合って、症状の出方やつらさに大きな違いが生じます。
ここでは、その仕組みをわかりやすく解説します。
根本原因|女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少
更年期症状が現れる根本的な原因は、卵巣機能の低下により女性ホルモン、特にエストロゲンの産生が急激に減少するためです。このホルモンの不足が、全身にさまざまな不調を引き起こす要因となります。
症状のつらさを左右する複数の要因
エストロゲンの減少は誰にでも起こる変化ですが、更年期症状の強さは、日頃の生活習慣や健康状態によって大きく異なります。喫煙、頻繁な飲酒、運動不足、加工食品中心の食生活は、体内で炎症が続きやすい状態をつくり、症状を悪化させます。また、ストレスが蓄積すると、代謝の調整や血糖値の維持、炎症の抑制などの働きを担うストレスホルモン「コルチゾール」のバランスが崩れ、睡眠障害や不安感、腹部脂肪の増加を引き起こします。さらに、肥満や糖尿病、甲状腺疾患といった基礎疾患がある場合は、更年期症状がより強く現れやすくなります。
症状別オーダーメイドソリューション

更年期症状は複数の要因が絡み合うため、効果的な対策を取るには、自分の状態に合ったケア方法を選ぶことが大切です。
ここでは、実際に現れている症状に合わせて、すぐに取り入れやすい具体的な対策(オーダーメイドソリューション)を一つずつご紹介します。
精神的・心理的症状
更年期になると、突然の感情の起伏やイライラ、不安感、憂鬱感が現れ、「ブレインフォグ」と呼ばれる記憶力の低下や集中力の低下を感じることがあります。
また、不眠症や睡眠の質の低下もよくみられる症状です。朝起きたときに理由のない不快感や動悸がしてつらいというケースも少なくありません。こうした場合は、まず食事の見直しから始めてみてください。パンや麺を控え、アボカドやオリーブオイルなどの良質な脂質を取り入れることで、ジェットコースターのように乱れていた感情が落ち着きやすくなります。眠れない夜には、「天然の精神安定剤」とも言われるマグネシウムが役立ちます。頭がぼーっとするような感覚には、脳細胞の主要成分であり、脳の炎症を抑える働きのあるオメガ3がおすすめです。特に、朝の不快感や動悸は、自律神経のバランスが乱れているサインかもしれません。最近では、このような症状の緩和をサポートするサプリメントにも注目が集まっています。
さらに、「ゾーン2有酸素運動」も取り入れてみてください。隣の人と会話できる程度の強度(例えば早歩きや軽いジョギングなど)の運動は、ストレスホルモンを安定させ、心を落ち着かせるうえで非常に効果的です。
身体的症状
突然顔がカーッと熱くなるホットフラッシュや寝汗、深い疲労感、ズキズキする関節痛なども、更年期によく見られる症状です。症状が強く、日常生活にも支障が出るほどの場合は、産婦人科医に相談し、ホルモン補充療法(HRT)を検討することをおすすめします。
慢性疲労に対しては「ゾーン2有酸素運動」とあわせて、体内でエネルギーをつくる働きをサポートする成分であるNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)の補給が役立ちます。また、関節痛には炎症を抑える食事やオメガ3が、頻繁に起こる筋肉の痙攣にはマグネシウムが有効です。
肌の老化およびトラブル
更年期になると、急に肌が乾燥したり、ハリが失われたりして、がっかりしてしまう方も少なくありません。そんなときは、スキンケアの見直しがとても重要です。
肌の保護膜を整えるセラミド、ナイアシンアミド、フラーレンといった成分でしっかり保湿し、1年365日、日焼け止めを欠かさないようにしましょう。
さらに、コラーゲンの生成をサポートするバクチオールやペプチド成分をスキンケアに取り入れることも、肌の弾力アップに役立ちます。
泌尿器や生殖器の不調
なかなか人には話しにくいものですが、膣の乾燥といった不快な症状も更年期に見られる変化の一つです。こうした症状が現れたときは、決して一人で悩みを抱え込まないようにしましょう。
まずは、市販で手に入る膣用の保湿剤や潤滑剤を使って、不快感の軽減を試してみてください。それでも十分に改善しない場合は、病院で局所ホルモン療法について相談することをおすすめします。この治療は全身への影響がほとんどなく、安全性も高いため、症状の改善に有効な選択肢といえます。
骨粗しょう症と心血管疾患
閉経後は、骨がもろくなり骨折しやすくなる「骨粗しょう症」のリスクが高くなるため、継続的な筋力トレーニングに加えて、骨の健康を支えるビタミンD3・K2、そしてマグネシウムの補給が欠かせません。また、心血管の健康を守るためには、先ほど触れた「ゾーン2有酸素運動」の実践に加えて、低塩・低糖質を意識した食事、定期的な健康診断でのHbA1c・血圧・コレステロールのチェックが重要です。
血糖値が高い状態が続くと、カルシウムだけでなく、骨の形成に必要なビタミンやミネラルの吸収が妨げられ、心臓や血管の健康にも悪影響を及ぼします。そのため、糖質を控えて脂質をエネルギー源にする「ケトジェニック食」を取り入れ、空腹感を抑えながら体重管理を行うことをおすすめします。
すぐには効果を実感しづらいかもしれませんが、骨粗しょう症と心血管疾患の予防は健康寿命を延ばすうえで最も重要な要素の一つです。年齢を重ねても自立した生活を続けるために、今のうちからしっかり対策しておきましょう。
視点の転換|なぜ更年期は「新しい始まり」なのか?

更年期は、視点を変えれば、人生の後半戦に向けた最も重要な「ゴールデンタイム」といえます。つまり、健康を根本から再設計する絶好の機会なのです。自分の体が発するサインをきっかけに健康習慣を見直すことで、これからの30~40年を左右する「健康リモデリング」を始める最適な時期となります。
そして、更年期は新しい自由を手に入れる時期でもあります。数十年にわたり続いてきた生理、避妊、妊娠にまつわるプレッシャーから完全に解放され、女性にとって計り知れない身体的・精神的な自由がもたらされます。この自由を活かして、これまで後回しにしてきた新しい挑戦や趣味、対人関係に向き合い、純粋に自分自身に集中した生き方を選べるようになります。
さらに、更年期は知恵と経験が最も成熟する時期でもあります。これまでの経験が積み重なり、人生への洞察力が高まるタイミングです。若い頃の不確かさや不安を乗り越え、自分自身をより深く理解することで、強く、自信に満ちた「人生の第二幕」を開くことができるのです。
人生の第二幕のための健康リモデリング

更年期は人生の「新しい始まり」であり、この先の健康を大きく左右する重要なタイミングです。この大切な時期を正しくケアすることで、心身ともに充実した「人生の第二幕」をより良い形で迎えることができます。
ここでは、更年期を健やかに乗り越えるために知っておきたい重要ポイントを改めて整理します。
体内の炎症を抑える食事を意識する
加工食品や砂糖を控え、健康的な脂質を意識的に取り入れましょう。特に血糖コントロールは骨や血管の健康に大きく影響するため、ケトジェニック食事法を活用するのも有効な方法です。
運動を生活習慣に組み込む
「ゾーン2有酸素運動」で心血管の健康維持とストレスの管理を行いつつ、筋力トレーニングで骨密度を高め、骨粗しょう症の予防につなげましょう。
戦略的な栄養補給で心身のバランスを整える
オメガ3で脳の働きをサポートし、マグネシウムを活用して睡眠の質を向上させましょう。
専門家との積極的な連携
ホルモン療法(HRT)は過度に心配せず、まずは医師に相談しながら検討しましょう。また、定期検診で血圧・血糖値・コレステロールの状態を確認し、心血管疾患を未然に防ぐことも重要です。
自分に合った「オーダーメイドケア」が大切
効果的なスキンケアで老化の進行をゆるやかにし、膣の乾燥などの不快な症状は保湿剤や専門家のサポートを活用しながら積極的にケアをして、生活の質を保ちましょう。
まとめ
更年期は自分の体をより深く理解し、人生の後半戦を主体的に設計するための「先行的健康管理」の期間です。今日から始めるべき最も重要な第一歩は、生理日記や症状日記をつけることです。いつ、どのような症状が現れたのかを記録するだけでも、自分の体のパターンを把握し、最適な管理方法を見つけるうえで大きな助けになります。
また、こうした記録は、受診時に医師へ症状を伝える際の貴重なデータとしても役立つでしょう。
この先生が監修しました。

Dr. マイケル・リー
アメリカ・デューク大学2002年卒業。
大学卒業後、大学病院の医師として様々なライフスタイルの患者の治療に従事。
その後、治療現場の経験を生かし、アメリカの大手製薬メーカーJohnson & Johnsonで
医療製品開発の実務経験を積み、2012年にレイコップ株式会社を設立。
医師として、また開発者として、
「人々の暮らしをより健康で豊かに(Better Quality of Life)」という信念に基づき、
「暮らしの中の予防医療」を目指し、日々の生活習慣に溶け込むような製品の開発に取り組んでいる。






